第9回 新刊算法起を読む:8
では、早速、前回の塀の厚さを求めましょう。まずは、問題文の現代語訳から
土の体積が分かっていて、塀の縦と横の長さが分かっています。前回の堤と同様に、塀の断面積を出せばいいんですね、まずは、使われる土の量から。
1坪=1間×1間×1間
=6.5尺×6.5尺×6.5尺
=274.625尺3(立法坪)
≒275尺3
5坪=5間=275×5=1375尺3
これが塀を造る土の量です。
別に、塀の断面積を求めます。
1坪=1間×1間
=6.5尺×6.5尺
=42.25尺2(平坪)
塀の厚さをX尺と置きます。
15坪=42.25×15=633.75尺2
633.75尺2×X尺=1375尺3
X=1375÷633.75
=2.1696・・・
≒2.17
2尺1寸7分
と、塀の厚さが出ました。
では、その続きの問題です。
現代語訳にも書いたように、「栗石」とは、岩石を割って造った小さな塊の石材のことで、「栗石台」とは、それを使った台状の立体のことです。また、「犬はしり」とは「犬走り」のことで、犬が走れる程度の幅の細い道のことで、ここでは各段の細い台状の部分(図では白色)です。これは現代でもまだ使われている言葉ですね。
さて、この立体は、似たようなものはどこかでご覧になったことがおありではないでしょうか。そう、まさに行基の造られた土塔そのものと同じ形です。段数や大きさは違いますが、この問題を解くと、実際の土塔の規模も計算できそうですね。
では、解いていきましょう。
まず、問題は、五重目つまり五段目(上段)の正方形の一辺の長さと、この立体の体積を求めています。一重目は10間四方なので、面積は10×10=100(坪)です。これを尺に換算すると、10間=6丈5尺なので、
6丈5尺×6丈5尺=42.25(丈2)
これを坪になおすと、
42.25÷(0.65×0.65)=100 です。
高さは全体で5間なので各段の高さは1間です。田原氏はこれを前提にしたようです。で一重目(1段目)の体積は、
100(坪)×1(間)=100(体積坪)となります。
二重目以降は、幅が1尺ずつ狭くなりますので、1辺の6丈5尺から狭くなった2尺ずつ引いていき、上と同様の計算をしていくと各段の体積は、
二重目:6丈3尺×6丈3尺=39.69(丈2)
≒93坪9分4厘
93坪9分4厘×1間=93坪9分4厘
三重目:6丈1尺×6丈1尺=37.21(丈2)
≒88坪0分7厘1毛
88坪0分7厘1毛×1=88坪0分7厘1毛
四重目:5丈9尺×5丈9尺=34.81(丈2)
≒82坪3分8厘8毛3糸
82坪3分8厘8毛3糸×1
=82坪3分8厘8毛3糸
五重目:5丈7尺×5丈7尺=32.49(丈2)
≒76坪8分9厘9毛4糸
76坪8分9厘9毛4糸×1
=76坪8分9厘9毛4糸
となります。これらを合わせて五段すべての体積を求めると、
100
93.9408
88.0710
82.3883
+ 76.8934
441.2935・・・441坪2分9厘3毛5糸
(答えは 441坪2分9厘8毛3糸)
以上のように、立体の体積は求められました。
なお、五重目で書いた「5丈7尺」が一辺の長さになります。
ところで、堺市中区土塔町にある土塔は、行基が建立した大野寺にある13重の土の塔で、一辺の長さは約53.1m、高さは8.6m以上です。神亀4年(727)に起工されたもので昭和28年(1953)に国の史跡に指定されています。
まず、「物成」とは、「年貢」のことです。また、「本高」とは、「実質の石高」のことです。
そして、「五つ一分取」などの言い方は、「5,1分を取る」ということを表した言い方です。
1年目:5.1
2年目:4.5
3年目:5.4
計15.0・・・これが3年間の取り分の割合です。
3年間の年貢量全体は、2182石5斗なので、年ごとの割合をかければ、各年の年貢の量が出ます。
1年目:2182.5石÷15×5.1=742.05石
2年目:2182.5石÷15×4.5=654.75石
3年目:2182.5石÷15×5.4=785.70石
計 2182.5 石
3年間の割合が15なので、
2182.5÷1.5=1455石・・・本高です
ここまでが①です。
②にうつりましょう。
①で本高1455石と出ましたが、物成(年貢)の割合が分かっている場合の物成の高を求める場合です。
1455石にその割合をかければ、物成の高が分かるということですね。
1455×0.6=87.3石
=87石3斗
割合が、4升、5升でも同じですとまとめています。
また、物成742石を納める時に、口米は1石につき3升と定めている(3%ですね)ので、物成の高に3升をかければ口米の高が出ますと書いています。
なお、口米とは、現代語訳の所にも( )で書いていますが、年貢以外の付加税となる米のことで、いってみれば役人の手数料とでもいえるものですね。
③です。
今度は、20石を納める場合ですが、口米を差し引いて年貢として納めるので、先にあった口米の割合3%を引くために、物成を1.03で割れば出ます。
20÷1.03=19.417475・・・
≒19.417
=19石4斗1升7合
となります。
これで、今回の問題は全て解けました。
田原嘉明の和算とは
新刊算法起は、上巻25章、下巻21章からなる江戸時代初期の数学の研究書です。その内の第10~第14までの5章について解読をしただけです。したがって、タイトルには「世界」と付いてはいますが、田原嘉明の全貌を解明したとは到底言えません。そこはお叱りを受けることを覚悟しつつ、今後、「世界」に少しずつ近づけていければと思っています。
さて、本文でも見られたように、この「新刊算法起」の問題は、単発的な課題に対して向き合っただけではなく、1つの課題、例えば第12の「池ノ水積」のように、池の表面積を求めたり、池の深さを知る方法を説いたりして池の水量を計算したり、池を造る際の堤に必要な土の体積の見積もりを出したり、この池からどの広さまでの田に水を入れられるかを求めたりと、池をめぐる様々な課題が解決できるように、その方法を具体的に説いています。
また、次の第13では、土を土場から工事現場まで運ぶために必要な人数を求めたり、土の量が決まっていて、その土で家の塀を造る場合の塀の長さや厚さを求めたりと、具体的な場面をつくって、具体的に解法を説いています。
工事をする側としては、こういう書物があると本当に助かるに違いありません。この書物に従って工事を進めると、従来、親方の勘に頼ってきたところがきっちりと数値が出て、無駄なく工事を終えることができるでしょう。
まだ緒に就いたところで、新刊算法起の全貌は解明しておりませんが、おそらくこの書全般にわたってこのような思想の下に解かれていることだと推察いたします。このことが、田原嘉明の人間性といいますか、課題性といいますか、書を活用する人の立場に立ったものの考え方をされる方だと思います。このあたりは、「和算との出会い」で書いた田原が医師であることと結びついているのかもしれません。医師は患者の立場にたったものの考え方をするものですし、医師としてもおそらくは「医は仁術なり」を実践してこられた方だったのでしょう。
この書を読み進め解読するにしたがって、田原嘉明の人間性を感じることができてきましたし、今後もこれを引き続き読み進めることに意欲が増してくる気がいたします。また、機会がありましたら、この「田原嘉明の世界」の続編をまとめたいと思っています。
なお、本書1ページ目の漫画「矢車剣之助」の中で「二一天作の五」という言葉が出てきますが、これは「2で10を割ると5になる」という割算の九九のことです。
最後になりましたが、著者はまだまだ未熟者でしてしっかりと原文を読めていないところが多々あると思います。もし読まれて気になるところや間違いなどがありましたら、お教えいただきたく存じます。今後ともよろしくお教えいただきますように御願い申し上げます。
原書文











