70　むかしの堺の地名

　今回も、堺の地名を取り上げます。堺の地名といっても昔の堺の地名です。紀州きしゅう街道かいどうにそって北から南にくだっていきましょう。

　北半きたはん町ちょう・北旅はた籠ご町・桜之さくらの町・綾之あやの町・錦之にしきの町・柳之やなぎの町・九間くけんの町・神明しんめい町・宿屋しゅくやの町・材木ざいもく町・車之くるまの町・櫛屋くしやの町・戎之えびすの町・熊野くまの町・市之いちの町・甲斐かいの町・大おお町・宿院しゅくいん町・中之なかの町・寺地てらじ町・少林寺しょうりんじ町・新在家しんざいけ町・南旅篭はたご町・南半町
以上が、かつて土ど居川いがわにかこまれていたころの堺の町です。

　南北に「半町」をおいていますが、これは町としてはせまいところだったからです。その内側に「旅籠（篭）町」をおいていますが、その名前のとおり、昔の宿屋やどやがならんでいました。「桜之町」「柳之町」は、それぞれ桜と柳が植うわっていたのです。「綾之町」「錦之町」は、戦国せんごく時代じだいに戦争せんそうからのがれるために、京都から綾織あやおりや錦織にしきおりの職人しょくにんさんが堺にやってきて住まわれたのです。

　また、「神明町」は神明神社が建たてられたこと、「材木町」は材木を港みなとで陸あげしていたこと、「車之町」は能のう学者がくしゃの車屋くるまや道どう悦えつが住んでいたこと、「櫛屋町」は和泉いずみ櫛ぐしをあつかう櫛くし問屋どんやが多かったこと、「戎之町」は戎えびす島じまの東に広がっていたこと、「熊野町」は湯屋ゆやがならんでいたこと、「市之町」は市が開かれていたこと、「甲斐町」は神じん功ぐう皇后こうごうが朝鮮ちょうせんでの戦いくさからもどられて甲かぶとを納おさめたこと、「大町」は大商人だいしょうにんが多く住んでいたこと、「宿院町」は住吉すみよし大社たいしゃの頓宮とんぐうがあることなど、「中之町」は南庄みなみのしょうの中央の町だったこと、「寺地町」は寺が集まっていたこと、「少林寺町」は少林寺という寺があること、「新在家町」は南庄に本在家ほんざいけ町ちょうがあったことから新しいということで、それぞれ町名がつけられました。

　さらに、むかしからこれらの町名の歌が歌われていましたし、むかしの堺の町名には、必ず間に「ん」が入ってよばれていました。「あやのちょう」が「あやんちょう」、「いちのちょう」が「いちんちょう」というように、「の」が「ん」とよまれていたのです。